【脳卒中のガイドライン】
目次
【脳卒中のガイドライン】
1. 脳卒中の分類
脳卒中は主に以下の3つに分類されます:
- 脳梗塞(虚血性脳卒中):脳の血管が詰まることによる障害。
- 脳出血(出血性脳卒中):脳内で血管が破裂することによる障害。
- くも膜下出血:脳を覆うくも膜の下に出血が起きる状態。
ガイドラインは、それぞれのタイプに応じた治療と管理を推奨しています。
2. 脳卒中の予防
一次予防(発症前の対策)
- 生活習慣の改善
- 高血圧管理:降圧薬の使用と塩分摂取制限。
- 糖尿病管理:血糖値のコントロール。
- 高脂血症管理:スタチンなどの使用。
- 喫煙・飲酒の制限。
- 適度な運動と健康的な体重維持。
- 薬物治療
- 心房細動患者に対する抗凝固薬(DOACなど)。
- 動脈硬化症患者に対する抗血小板薬(アスピリンなど)。
二次予防(再発防止)
- 発症後、リスク因子(高血圧、糖尿病など)の厳密な管理。
- 抗血栓薬の継続的な使用。
3. 脳卒中の急性期管理
診断
- CTやMRIによる脳内病変の迅速な評価。
- 血管イメージング(MRA、CTAなど)による血流の確認。
治療
- 脳梗塞の場合
- 発症4.5時間以内であれば、t-PA(アルテプラーゼ)による血栓溶解療法。
- 大血管閉塞症例には機械的血栓除去術(メカニカル・ソロビング)。
- 脳出血の場合
- 血圧の早期コントロール。
- 必要に応じた外科的治療(血腫除去術など)。
- くも膜下出血の場合
- 動脈瘤のコイル塞栓術やクリッピング術。
- 血管攣縮の予防(カルシウム拮抗薬の使用など)。
4. リハビリテーション
リハビリは急性期から始まり、慢性期に至るまで重要です。
- 早期介入
- 発症後24~48時間以内にリハビリを開始。
- ベッド上での体位変換、ROM(関節可動域)訓練。
- 急性期リハビリ
- 機能回復を目的とした運動療法。
- 嚥下障害に対する訓練。
- 認知機能や心理的ケアの介入。
- 回復期・慢性期リハビリ
- 歩行訓練、ADL(日常生活動作)の改善。
- 社会復帰や仕事復帰を目指したプログラム。
5. 合併症の管理
- 肺炎予防:嚥下障害の評価と適切な栄養管理。
- DVT(深部静脈血栓症)予防:弾性ストッキングや抗凝固療法の使用。
- 抑うつや認知症のリスク管理。
6. 最新のガイドラインの参考情報
日本における主要な参考資料:
- 日本脳卒中学会ガイドライン
最新版では急性期治療の基準やリハビリのタイミングなどが詳細に記載されています。 - AHA/ASAガイドライン(アメリカ心臓協会/脳卒中協会)
世界的な脳卒中管理のスタンダードを提供。
【脳卒中の急性期治療】
急性期治療の主な目標は、「救命」と「二次的な脳損傷の最小化」です。発症からの時間が治療選択の鍵になります。
1. 一般管理
- 血圧管理
- 脳梗塞:血圧が非常に高い場合(収縮期180~220mmHg以上)を除いて積極的降圧は推奨されない。
- 脳出血:血圧を迅速に140mmHg未満に管理(ただし適応を慎重に判断)。
- 血糖管理
- 高血糖(>180 mg/dL)は悪化リスクがあるため、インスリン療法などで適切に管理。
- 体温管理
- 発熱は脳損傷を悪化させるため、解熱剤を使用して正常体温(36.5~37.5°C)を維持。
- 酸素療法
- 酸素飽和度が94%未満の場合に酸素投与。
2. 脳梗塞の急性期治療
- 血栓溶解療法
- 発症後4.5時間以内にt-PA(アルテプラーゼ)を静注(適応基準あり)。
- 重篤な出血リスクがあるため慎重な評価が必要。
- 機械的血栓除去術(MT)
- 大血管閉塞に対して、発症6~24時間以内の症例で適応。
- 血管内治療デバイスを用いて血栓を直接除去。
- 抗血小板療法
- 初期段階でのアスピリン投与(t-PA適応外の場合)。
- 高リスク症例ではクロピドグレルの併用を検討。
3. 脳出血の急性期治療
- 血圧コントロール
- 収縮期血圧140mmHg以下を目標に降圧療法(カルシウム拮抗薬など)。
- 外科的治療
- 血腫量が大きい場合や、脳ヘルニアのリスクがある場合は外科的血腫除去術を実施。
- 止血療法
- 抗凝固薬使用中の患者には、逆転薬(プロトロンビン複合体など)を投与。
4. くも膜下出血の急性期治療
- 動脈瘤の処置
- 動脈瘤破裂が原因の場合、コイル塞栓術またはクリッピング術を早期に実施。
- 血管攣縮予防
- カルシウム拮抗薬(ニモジピン)の投与。
- 水頭症対策
- 脳脊髄液ドレナージ(腰椎ドレナージまたは外部ドレナージ)。
【回復期治療】
急性期治療後、損傷を最小限に抑えながら機能回復を図ります。
1. リハビリテーション
- 開始時期
- 状態が安定していれば発症後24~48時間以内に開始。
- 方法
- 上肢・下肢の関節可動域運動(ROM訓練)。
- バランス訓練、歩行訓練。
- 作業療法(手指の巧緻性回復を目指す)。
- 嚥下訓練
- 嚥下障害がある場合、VF(嚥下造影)やVE(嚥下内視鏡)で評価し、段階的に嚥下リハを進める。
【慢性期治療】
機能回復や社会復帰を目指し、二次予防と合わせてリハビリを継続します。
1. 二次予防
- 抗血栓薬の使用
- アスピリン、クロピドグレルなどの継続使用。
- 心房細動がある場合は抗凝固薬(DOACやワルファリン)を投与。
- 生活習慣の改善
- 食事療法(塩分制限、低脂肪食)。
- 適度な運動習慣の推奨。
- 再発リスク因子の管理
- 高血圧:130/80mmHg未満に管理。
- 糖尿病:HbA1c 7.0%未満を目指す。
2. 長期リハビリ
- 機能回復
- ボバース法、PNF、CI療法などの理学療法技術を使用。
- 社会復帰支援
- 福祉機器の導入や職業訓練。
- 心理支援
- 患者の抑うつや不安に対応するカウンセリング。