脳梗塞リハビリシリーズ №8 「手のリハビリ方法編・第六弾」
目次
- 1 手のリハビリ方法編第六弾ということで、今回も第一弾~五弾に引き続き代表的な上肢機能アプローチについて、本日もここ横浜あざみ野からご紹介していきます。
手のリハビリ方法編第六弾ということで、今回も第一弾~五弾に引き続き代表的な上肢機能アプローチについて、本日もここ横浜あざみ野からご紹介していきます。
9. Proprioceptive Neuromuscular Facilitation(PNF)
【はじめに】手のリハビリ方法
「脳卒中治療ガイドライン2015[追補2019]」では、「ファシリテーション(神経筋促通手技)は行ってもよいが、伝統的なリハビリテーションより有効であるという科学的な根拠はない(グレードC1)」とされている。一方、症例は多く報告されておりポジティブな内容が示されている。
固有受容性神経筋促通法(Proprioceptive Neuromuscular Facilitation;PNF)に関しては、エビデンスレベルとしては決して高いとはいえない現状がある。
PNFとは、生体組織を動かすことにより人体に存在する様々な感覚受容器を刺激し、神経、筋などの働きを高め、動作などを含む身体機能を向上させる統合された治療アプローチである。また治療アプローチは常にポジティブで、対象者にとって身体的・精神的に何が可能かを考えて行われる。つまり、身体機能・構造的な問題のみならず、活動制限や社会参加レベルにも目を向けて評価、治療することが重要であるといえる。
【PNFの歴史】手のリハビリ方法
PNFはHerman kabat(医師)によるもので、Maggie Knott(理学療法士)とともに研究を行い、1940年代に基礎が築かれた。PNFの手順と技術の発展の多くは、Sherringtonの研究に基づいている。当時ポリオが大流行し、PNFは脊髄性の疾患の治療に用いられていた。その後、脳性麻痺の治療を通し、次第に整形外科などその他の領域の疾患に対してもPNFが使われるようになった。現在では、疾病に限らずスポーツなど多くの場面で用いられている。
【PNFの定義】手のリハビリ方法
PNFとは、Proprioceptive, Neuromuscular, Facilitationのそれぞれの頭文字からなる。つまりPNFとは、(P)感覚受容器を刺激することにより、(N)神経や筋の働きを高め、(F)身体機能を向上させるコンセプトである。
Proprioceptive
人体各所に存在する固有受容器(proprioceptor)が刺激を受けること。固有受容器は筋・筋膜・腱・靱帯・関節包内・前庭器官などに存在し、関節の位置・四肢または体幹の動き・身体の姿勢・腱や筋の緊張状態についての情報、つまり自身の感覚を受容する。よって、筋力強化や関節可動域の改善だけでなく、動作のなかで身体部位の瞬時の変化や重心移動への対応といった身体反応を高めることが重要となる。そのためには必要な刺激の方法として、PNFでは固有受容刺激(抵抗・牽引・圧縮・伸張刺激・パターンなど)と外受容刺激(触覚・視覚・聴覚)への感覚入力が行われる。
Neuromuscular
神経と筋に関係することで、感覚受容器からの情報が脳に入力・処理され、神経や筋を経由して動作や活動へ出力されていく。入力と出力は常に統合・連携しながら絶え間なく起こっており、筋活動や反応は動作や活動へとつながる。
Facilitation
促通とは刺激を通して現象が様々な方向に広がっていく効果をさらに大きくしていくことである。つまり固有受容器と神経を刺激することで、促通状況を正常化、もしくはさらに高めていくことをいう。
【Basic Principles(基本原理) and Procedures(手段) 】手のリハビリ方法
原理とは人間が本来持っている反応特性を利用し、脳(中枢神経系)に刺激(情報)を与えるものであり、手段とはその原理を利用して反応させる方法である。
原理や手段は筋収縮への促進、動きや安定性を保つための能力、適切なグリップ・抵抗による動きの誘導、タイミングを通じての協調運動を達成するものである。PNFはlumbrical grip(虫様筋握り)でマニュアル・コンタクトし、局所への過度な圧迫や痛みを引き起こすことなく、受容器への刺激や抵抗、3次元の動きを制御することが可能なとなる。PNFパターンとは近位関節で発生する動きで、例として肩の屈曲–外転–外旋パターンと名前がある。正常な動作の特徴に近く、パターンを利用して増加した筋活動は、パターン内で遠位および近位の両方に広がり、一つのパターンから関連する運動パターン(放散)へと広がる。治療では、これらの効果的な筋活動の組み合わせ(パターン)から、放散を利用して目的の筋活動を強化し、目的の機能的動作を向上させる。
【PNF Techniques(テクニック)】手のリハビリ方法
身体の原理を利用し、対象者の持つ諸問題を解決するための考え方とその治療手段である。身体機能または活動の改善を目的とする方法でもあり、筋活動の促進、抑制、強化、弛緩を通じて機能的な動きを促す。PNFテクニックは、求心性、遠心性、および静止性の筋収縮を利用を使用し、各対象者に合うようにする。
【PNF Philosophy(哲学)】手のリハビリ方法
哲学の中に治療技術・手法に対することは示されていないが、技術だけで身体機能をみるのではなく、対象者を全体的に捉え、治療していくことが哲学で示唆されている。そのため、philosophy(哲学)を根底に持ち、対象者の目標に向けて最適な治療を常に模索し、精神面や周囲環境なども含めて総合的に評価を行い、解決していくことが重要である。PNFの哲学には、以下に示す治療概念に基づいた基本的な考え方がある。
ポジティブアプローチ
治療アプローチは常にポジティブであり、対象者の身体的・心理的に可能なレベルから評価と治療が開始される。対象者のよいところを利用し、悪いところに対しよい影響を与える間接的治療や、痛みを出さずに達成が可能なレベルから段階的に行われる。
機能的アプローチ
ここでいう機能とは、歩行・排泄動作・食事動作など、生活での機能的動作のことをいう。すべての治療の主な目的は、対象者が最善レベルの機能を達成できようにすることである。実際の機能の獲得に向けて、ICFと機能に直結した場面や環境での評価と治療が行われる。
集中的トレーニングにより潜在能力を得る
機能を阻害している因子に対して肢位・活動・環境を変えて行い。最適な潜在能力を引き出すために様々な可能性を探る。また治療への対象者の積極的な参加は、最良の筋力・協調性・耐久性の発達に必要である。自主トレーニングは、促通の後に対象者が繰り返し行う際に用いられる。
全体像をみる
特定の身体機能だけではなく、環境因子や個人因子など対象者の全体に向けて、問題点の根源を探るための評価と治療が行われる。
運動制御(motor control)の段階
運動制御は4つの段階に分かれ、それぞれにおいて目標と治療アプローチを調整する必要がある。対象者が特定の活動に必要な可動性や安定性に欠けている場合、実際の活動を行う前に段階に分けて、対象者の問題を認識し治療を組み立てることができる。
1 可動性(mobility):運動を始めたり、十分に動いたりすることができる。2 安定性(stability):姿勢を安定させ、重力を制御する。3 コントロールされた運動性(controlled mobility/mobility on stability):安定した中で動きを制御する。4 巧緻性(skill):様々な段階を経て運動を獲得する。
運動学習(motor learning)の原理の利用
運動学習は3つの学習段階に分かれ、課題を繰り返して実行することが原則である。
しかし、単純に反復するだけではなく、課題を反復するなかで工夫や試行錯誤をする働きが必要である。そのため、対象者がどの段階にいるのかを評価し、それに応じて治療設定を行い、最終的には円滑に活動を実行できるようにしていくことが重要である。
1 認知段階:早期(cognitive stage):情報を言語として理解し、運動課題を実行するために様々な戦略を試す。そのためには意識や注意を必要とする。2 連合段階:中間(associative stage):遂行能力のばらつきは減少し、意識や注意は少なくなり、改善の速度は遅くなる。3 自動(自律)段階:後期(autonomousstage):意識することがなくなり、複合課題も可能となる。
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参考文献
作業で紡ぐ上肢機能アプローチ:p106,107,108,109
医学書院