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脳梗塞リハビリ リバイブあざみ野

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脳梗塞リハビリシリーズ №6 「手のリハビリ方法編・第四弾」

2022/12/17

手のリハビリ方法編ということで、今回も第一弾・第二弾・第三弾に引き続き代表的な上肢機能アプローチについてご紹介していきます。

 

7. ボツリヌス療法

手のリハビリ方法の7つ目として、ボツリヌス療法をご紹介します。

 

はじめに

 痙縮は、脳血管障害に代表される中枢神経系疾患の後遺症において、運動麻痺と同様にその後の生活動作に大きな影響を与えるものである。上下肢の痙縮に対する治療には様々なアプローチがあるが、1990年代以降世界的な注目を浴びているものに、ボツリヌス療法という手段がある。まず1990年代に米国で実施されたランダム化比較試験(RCT)でその有効性や安全性が確認され、その後本邦において実施されたRCTの良好な結果が、2010年の上下肢痙縮に対するボツリヌス毒素お用いた治療の国内保険適用につながっている。

 

推奨レベル

2005年の時点で、米国の脳卒中リハビリテーションガイドラインにおいて推奨度はBとなり、痙縮に対するボツリヌス毒素投与が考慮に値すると評価されている。2009年になると、日本の脳卒中治療ガイドラインにてグレードAとして推奨され、英国の痙縮管理のためのガイドラインおいても、ボツリヌス毒素投与は、リハビリテーション治療とセットで運用されるべきとの認識が示されることになった。そして、2016年の米国脳卒中リハビリテーションガイドラインにおいては、痙縮改善の先に能動的な動きの改善を見込めることも記載されるに至っている(推奨度A)。

 

治療目標の方向性

ボツリヌス療法の目的は、痙縮改善という直接的なものと、痙縮改善の結果期待される間接的な機能改善に大別される。そして、間接的な目的は対象者視点でpassiveなものとactiveなもので以下のように整理することができる。

1 セルフケア・ポジショニングの改善(passive):痙縮改善によって疼痛やpassiveROMrange of motion)が改善し、対象者やその介助者が動作を代償的に実施することを容易にする。
2 動作レベルの改善(active):痙縮改善によって疼痛やactiveROMが改善し、能動的な生活行為動作の改善につなげる。

 

特徴

   ボツリヌス毒素投与は、投与数日で痙縮抑制が出現し、12週間後には効果が安定すると想定されている。そして、その効果は34ヶ月間程度持続する。この特徴は可逆性と説明され、施注効果が想定通りであれば課題(問題)として、想定外であれば利点として解釈される。他の痙縮治療手段と比較してよく挙げられる利点と課題を以下に示す。

1 利点

・痙縮の程度に合わせて、対象筋肉ごとに施注量を調整することができる。

・施注手技が比較的容易である(医師視点)。

2 課題

1回あたりの総使用量制限(上肢が400単位、下肢が300単位、2週間の累積上限400単位:20214月改定)。

・薬剤が高価。

・対象者における感受性の違い(効きすぎであったり、不十分であったりすることがある)。

  

適用

   ボツリヌス療法は、対象者の上下肢痙縮が限局的である場合、そして、痙縮を軽減することによって問題となっている運動機能が向上する。または疼痛や感覚障害が改善するという想定がある場合に適用される。日本の療法士が多く関わる場面は脳卒中に由来する痙縮が多いと思われるが、他にも多発性硬化症、頭部外傷、脳性麻痺、脊髄損傷などに由来する痙縮に用いられている。

 

患者説明

特に問題になりやすいのは能動的な運動機能の改善を想定する場合である。ボツリヌス毒素投与(注射)をすれば、それだけで自らの意思で肘や指が伸びるようになると対象者やその家族が信じているケースが少なからずある。そのため、あくまでボツリヌス毒素投与はその後のリハビリテーション治療を運用しやすくするための手順であり、自分の意思で上下肢をもっと動かせるようにするためには、その後のリハビリテーション治療こそが重要である(また、その治療には一定以上の時間が必要となる)ということを対象者に理解してもらう必要がある。

 

施注後のリハビリテーション

   ボツリヌス毒素投与単体よりも、その後に運動療法や物理療法などを組み合わせた方が、MASなどのアウトカムでよりポジティブな結果を残すということは、複数のシステマティックレビューなどを通して認識されつつある。しかしながら、十分な臨床研究数がないため、併用手段としてどのリハビリテーション治療を特に支持すべきかはいまだ不明である。以下の②,③に、RCTなどで検討され相乗効果が期待される手段を示す。

1 早期に行われるアプローチ

モデルマウスなどでの薬物動態の研究から、可能であれば施注後1時間以内(遅くとも24時間以内)にストレッチやROM訓練などを通して施注筋を収縮させる(神経終末からアセチルコリンを積極的に放出させボツリヌス毒素を神経終末に取り込ませる)ことで、ボツリヌス療法の効果を適切に引き出せるとの意見がある。その後も、12週間程度は継続的に痙縮や筋緊張をモニタリングし、その後の運動療法や装具選定(作成)の開始時期に効果が安定しているかを確認する必要がある。

2 運動療法

CI療法、ロボット療法、理学療法(ストレッチやROM訓練など)、作業療法が選択肢に挙がる。これらの治療手段を用いた報告は、対象疾患、練習負荷、練習時期など多くの視点で比較困難だが、練習後の長期的な経過(治療後6ヶ月間)の視点でいえば、ARATMALだけでなくMASに関しても(訓練対象上肢の積極的な実生活使用を促す)CI療法に伴って良好な結果が報告されている。

3 物理療法

体外衝撃波治療(extracorporeal shock wave therapy)、末梢電気治療、装具療法、ギプス治療がまず選択肢に挙がる。一般臨床おいて使用可能性の高い振動刺激治療に関しては、見込みのあるアプローチとの認識は持たれているが、他の併用治療手段と比べて適切なデザインの臨床試験におけるポジティブな効果報告が不足している。

 

反復投与

ボツリヌス毒素の薬効は投与後3ヶ月程度とされているが、臨床現場では3ヶ月間を超えて効果が持続することがある。この現象は、特に反復投与された事例において確認されており、施注反復の末に1年間以上効果が持続した例もあるという。このような事例に鑑みると、投与間隔制限(反復投与の際は、3ヶ月間以上の間隔を空ける)の必要性を認識させられる。

加えて、反復投与で注意が必要なのは、能動的な運動機能を期待する場合である。投与のたびに投与筋の状態が変化するため、そのたびに一定以上の運動負荷を伴った治療手段と組み合わせる必要が生じてしまう。特にCI療法のような行動変容を重要視する治療手段では注意が必要である。(痙縮がコントロールされた状態で実施された)練習期間中に対象者自身が再獲得した麻痺手使用の戦略や問題解決を効果的に利用できなくなってしまう場合があるからである。

 

Clinical Messages

 ・一般臨床現場において、担当療法士はボツリヌス毒素投与前から施注医師とコミュニケーションをとり(痙縮の程度や末梢因子の影響に対する認識を共有し)、その後の練習場面を想定したうえで、問題となる筋やその阻害の程度を施注医師に伝える必要がある。

・ボツリヌス毒素投与後に組み合わせるリハビリテーション治療に関して、現在のところ特別に有望なものはないが、選択肢は複数あるため、必要に応じて組み合わせて実施することを考慮する。

・時に投与筋に望まない脱力が生じることがあるが、回復するまでの期間、練習場面だけでなく生活場面も評価し、可能な限り廃用症候群や学習性不使用を避ける試みを行う。

 

 

参考文献 

作業で紡ぐ上肢機能アプローチp126127128129  医学書院