脳梗塞リハビリシリーズ №2 「手」
こんにちは長兄です。12月からはブログの頻度を少し増やしてお送りしております。さて前回に続き今回は第2回。まだ2回ですが・・・。こつこつ、じゃんじゃんとやっていきたいと思います。
本日のテーマは「手」についてです。自費リハビリの現場においてもおそらく一番ご相談が多いのが「上肢~手」についてです。一見、麻痺の程度が軽く良く動くようには見えても、日常生活において麻痺手の使用頻度が極端に少なかったりということは多々あります。
今回は「上肢機能障害」、「痙縮」について、どういうリハビリが有効なのか?というところに焦点を当てていきたいと思います。
1. 上肢機能障害(推奨)

解説
軽度から中等度の脳卒中後上肢麻痺患者に対して、特定の動作の反復を含む機能訓練を行うことで、上肢運動機能の改善が得られる。特に、課題志向型訓練、非麻痺側上肢を抑制して生活の中で麻痺側上肢を強制使用させる訓練の有用性が明らかにされている。麻痺側上肢を強制使用させる訓練は特別な機器を必要としないということもあり広く導入することが可能であるが、亜急性期以前に同訓練を行った場合には効果が確認できなかったとする報告がある。
中等度から重度の上肢麻痺患者においては、ロボットを用いた訓練を集中的に行うことが有用であることが示されている。同訓練による効果は、脳卒中発症後1ヶ月以内であってもみられる。脳波所見などに基づいてフィードバックを行うbrain-machine-interface(BMI)を応用した訓練の有用性も報告されている。中等度から重度の上肢麻痺に対して、筋電図に同期させて神経筋電気刺激を行うことがある。また、重度の上肢麻痺を呈する患者に多くみられる肩関節亜脱臼に対しても、神経筋電気刺激の有用性が報告されている。なお、肩関節亜脱臼に対してはスリングが有用な場合もあるが、その効果は装着している間に限られると報告されている。
上肢麻痺に対して、運動の観察に基づく訓練や鏡像を用いた訓練など視覚刺激を応用した訓練が行われることがある。また、上肢の運動イメージを想起する訓練やバーチャルリアリティーを用いた訓練の有用性も報告されている。反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)および経頭蓋直流電気刺激(tDCS)が上肢麻痺を改善することを示した報告があるが、患者の選択と安全面への配慮が必要である。一方で、課題志向型訓練とrTMSの併用については、最近のランダム化比較試験(RCT)ではrTMSの訓練への上乗せ効果が確認されていない。
促通手技を反復する訓練がア、軽度から中等度の上肢麻痺を改善させることがRCTで報告されている。末梢への振動刺激、感覚刺激、迷走神経電気刺激が行われることもある。しかしながら、これらの療法についてはまだ文献数が少なく、システマティックレビューなどによる検証が十分にされていない。
2. 痙縮(推奨)
解説
ボツリヌス毒素療法が上下肢痙縮を有意に軽減させることは、十分に確認されている。毒素投与によって、上下肢の運動機能が有意に改善することも示されている。ただし、これらの運動機能改善を持続させるためには、訓練を継続して併用することが重要である。ボツリヌス毒素療法については、長期的に投与を繰り返した場合にも有害事象発生が増加することはない。上肢痙縮に対して長期的に投与した場合、手指衛生や鎮痛に対する患者の満足度が高くなり、生活の質(QOL)も向上する。筋電針やエコーなどのガイドを使用した上でボツリヌス毒素投与を行うと、痙縮の軽減が有意に大きくなる。ボツリヌス毒素療法、発症後3ヶ月以内に施行された場合でも関節運動を改善させ、痙縮関連疼痛を軽減する。亜急性期に改訂Ashworthスケール(modified Ashworth Scale:mAS)2以上を呈した患者にボツリヌス毒素を投与した場合、症候性の痙縮が出現して再投与を要するまでにかかる日数は、プラセボ投与の場合と比較して有意に長くなっており、毒素投与が痙縮の発生を減らしその増悪を遅らせることが示唆された。また、亜急性期に下肢痙縮筋にボツリヌス毒素を投与した場合、8週間後における下肢運動機能、日常生活動作(ADL)、痙縮の改善が有意に大きくなっていた。
フェノールによる運動点ブロックは、手技の難易度が高く有害事象発生リスクも伴うが、長期的にはボツリヌス毒素療法と同等の痙縮軽減効果を示すと報告されている。
手関節痙縮に対する持続伸展装具の使用は、メタ解析で有効性が示されているが、質の高いランダム化比較試験の報告は少ない。ボツリヌス毒素療法後の足関節痙縮に対して、伸展持続時間の長いテーピングが有効とする報告もある。
上肢痙縮に対する経皮的末梢神経電気刺激(transcranial electrical nerve stimulation:TENS)の報告は少ないが、下肢痙縮に対するTENSの効果は明確に示されている。下肢痙縮へのTENSは痙縮を有意に軽減させ、静的バランスおよび歩行速度を改善させる。ただし、その効果はボツリヌス毒素療法よりは小さい。TENSを施行する際には、神経に沿ってもしくは筋腹に刺激電極を設置するのが良い。
髄腔内バクロフェンポンプ療法(intrathecal baclofen therapy:ITB)は痙縮の軽減やADLの向上に有効であるが、治療関連有害事象発生率が20%以上と高く、その導入には注意が必要である。
経口筋弛緩薬については、チザニジンはバクロフェンやジアゼパムと同等の効果を示した。ダントロレンナトリウムも痙縮を軽減させる。ただし、経口筋弛緩薬の投与が運動機能を改善させるか否かを検討したメタ解析ではその有効性は確認されず、一方で有害事象が増えることが示唆された。
体外衝撃波治療(extracorporeal shock wave therapy:ESWT)は、複数のメタ解析で痙縮を軽減させることが示されているが、各研究の内容は均一ではない。
反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)による上肢痙縮の軽減効果はメタ解析では示されているが、解析された研究の質は高くない。経頭蓋直流電気刺激(tDCS)の痙縮に対する有効性は、メタ解析では否定されている。局所的筋振動刺激は盲検化が困難であるが、上肢痙縮に対する有効性がシステマティックレビューで示されている。
参考文献
脳卒中治療ガイドライン2021:p266,268,269 協和企画