脳梗塞で起こる言語障害とは?症状と受診の目安を専門家が解説
目次
脳梗塞で起こる言語障害とは?症状と受診の目安を専門家が解説
脳梗塞と言語障害の基礎を理解する
脳梗塞(のうこうそく)は、脳の血管が詰まり血流が途絶えることで脳細胞が障害される病気です。とくに左半球の前方〜側頭部(いわゆる言語中枢)が障害されると、言葉が出にくい・理解しにくいといった「言語障害(失語症)」が起こります。言語障害は必ずしも重症だけに見られるわけではなく、軽度でも気づきにくいサインとして現れることがあります。
脳の損傷は、発症からの時間が長くなるほど回復が難しくなります。脳虚血が持続すると発症から数時間以内に不可逆的な変化が進行する(AHA 2019)ため、言語障害の出現は「救急受診が必要な明確なサイン」と捉えられます。
脳のどの場所が障害されると起こる?
ブローカ野(前頭葉)は話す・文章を組み立てる能力を主に担い、ここが障害されると言葉が出にくくなる一方で理解力は比較的保たれることが多いです。ウェルニッケ野(側頭葉)は言葉の理解を担い、障害されると流暢に話しても意味が通じにくくなることがあります。
言語障害を伴う脳梗塞の診断プロセス
脳梗塞で言語障害が疑われる場合、診断は「時間との勝負」です。発症からの経過時間が短いほど治療の選択肢が広がるため、救急外来では初期評価→脳画像→血液検査→原因検索の順で迅速に進みます。特に急性期では、頭部CTは数分以内に実施され、出血性病変の除外に使用される(AHA 2019)といった手順があります。
診断でよく使われる検査
MRI(DWI)は梗塞部位をより詳細に描出でき、発症数十分〜数時間以内の虚血変化を捉えられる(厚生労働省資料)ため、言語障害の原因領域を特定する際に重要です。血管評価(MRA・頸動脈エコー)は詰まりの位置や狭窄の有無を検査します。
治療:言語障害を伴う脳梗塞では何が行われるのか
治療は「血流の再開」「脳細胞の保護」「合併症の予防」「リハビリ開始」の4本柱で進みます。初期対応では、血栓溶解療法(tPA)や血栓回収療法が検討されます。治療方針は発症時間、画像所見、血管の閉塞部位、全身状態により厳密に判断されます。
急性期に行われる主な治療
静注tPAは発症から4.5時間以内の投与が推奨されている(AHA 2019)ため、発症時刻の確認が極めて重要です。血栓回収療法(EVT)は太い血管が詰まった場合にカテーテルで血栓を除去する方法で、発症6〜24時間以内の適応となる場合があります(AHA 2019)。
言語障害へのリハビリと回復の考え方
言語障害(失語症)のリハビリは急性期から段階的に始まります。脳は損傷後も可塑性をもつため、適切な刺激で機能の再構築が期待できます。発症から数週間〜数か月が改善の伸びが大きい時期とされており(国際文献)、この期間の関わり方が回復に影響します。
訓練はどう進む?
初期は呼称訓練や理解課題など基礎的な課題から始め、徐々に会話練習や文の構成へと進みます。家庭での言語使用量を増やすことが回復を安定させるため重要です。
家族と周囲ができるサポート
言語障害は本人だけでなく家族や周囲の生活にも影響します。サポートの基本は「焦らせない」「否定しない」「成功体験を一緒に積む」の3点です。ゆっくり話す、簡潔な表現にする、ジェスチャーを活用するなど、日常会話の工夫はリハビリ効果を高めます。
家族が取り入れやすい関わり方
一度に複数の情報を伝えず「短く」「ゆっくり」「一つずつ」伝えること、できたことに注目して肯定することが大切です。家族の負担が大きい場合は地域の支援サービスや医療スタッフにつながることを検討しましょう。
まとめ
脳梗塞による言語障害は、発症早期の診断と治療、そして日常生活につながるリハビリが重要です。急性期は時間との勝負であり、発症時刻の記録と早期受診が治療選択を大きく左右します。その後は段階的な訓練と家族の関わり方が回復の質を高めます。医療・リハビリ・家族支援を三位一体で進めることが、本人の生活再構築において最も重要です。
🗂 よくある質問
症状が急に出た場合は迷わず119に連絡してください。迷ったら救急へ。早期対応が治療や回復に直結します。
参考文献
- W. J. Powers et al. (2019). Guidelines for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke. ahajournals.org/doi/10.1161/STR.0000000000000211. DOI:10.1161/STR.0000000000000211
- Langhorne P, Bernhardt J, Kwakkel G. (2011). Stroke rehabilitation. pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21571152/. DOI:10.1016/S0140-6736(11)60325-5
- 日本脳卒中学会. (2025). 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕(改訂項目). jsts.gr.jp ガイドライン(PDF)









