VOL.20 ブランコはなぜこげるのか ~長兄のsmall talk~
こんにちは長兄です。今回も横浜からお送り致します。歩行のお話です。
「実際に歩いているのだから、歩き方がわからないはずがない」と思うかもしれない。
しかし、運動の実行とその運動の理解の間には大きな隔たりがある。
1つの例として、「ブランコをこぐ」動作を想定していただきたい。生まれてはじめてブランコに乗ったとき、ほとんどの人は親に押してもらっていたことだろう。だんだん自分でこぐことを覚えると、たちこぎをしてかなりの高さまでブランコを揺らせるようになる。しかし、よく考えると外部から力を受けていないのに、振子運動であるはずのブランコの振幅がなぜ増加をしていくのかを説明できる人は少ないのではないだろうか。
このような現象はパラメーター励振と呼ばれる現象を利用している。たとえば、振子運動における系の長さを変えると、位置エネルギーの入出力関係が変化し振動を大きくすることができる。通常、ブランコの揺れを大きくしようとした場合に、ブランコの台の上で立ったりしゃがんだりするだろう。これにより、振子の系の長さを変化させたのと同じ状態にすることができるのである。われわれは経験的にこのようにブランコの揺れを大きくする方法を知っている。しかし、なぜ立ったりしゃがんだりするかについて説明できる人は少ない。
おそらく歩行においても同じことがいえるだろう。われわれは歩行中に起こっている運動の力学的意味については知らなくても歩行ができる。逆にいうと歩行しているからといって、歩行で生じている個々の運動の意味を正確に理解しているわけではない。逆にいうと、正しい歩行の仕方が失われた場合、意識的に運動を矯正することは非常に難しい課題となる。
歩行再建 歩行の理解とトレーニング
著者 大畑光司
第1版第2刷C
諸言
2)ブランコはなぜこげるのか「pp.1‐2」より直接引用